会計ソフトの料金が高いと感じたとき、検討の選択肢は「現行契約の見直し」「他社の会計SaaSへの乗り換え」「会計機能そのものの自社開発」、そして「周辺業務の専用開発と会計ソフトの併用」に分かれます。法改正への追従が続く会計・給与領域は、自社開発でゼロから置き換える負担が大きいため、既製品のSaaSを残す判断が現実的です。他社製品への乗り換えを否定するわけではありませんが、制度対応の負担自体はどの製品でも発生します。開発や見直しの余地が大きいのは、案件管理や日報など、自社固有の手順に合わせて汎用SaaSを契約している周辺業務の側といえます。
料金が高いと感じたら、残す/置き換えを見極める【6つの軸早見表】
まず、SaaSを「既製品のまま残す」か「自社専用システムへの置き換えを検討する」かを、6つの軸で整理します。機械的な判定ではなく、自社の契約中SaaSを照らし合わせる検討材料として活用してください。
| 見極めの軸 | 「残す」寄り(既製SaaS利用が現実的) | 「置き換え」候補になりやすい(専用開発等の検討余地) |
|---|---|---|
| 法改正・制度対応の頻度 | 電子帳簿保存法・インボイス制度・年末調整など、継続的な制度更新がある | 法令への直接依存が比較的小さく、仕様変更の主因が自社の運用都合 |
| 外部との標準接続 | 銀行・クレジットカード・電子申告(e-Tax)など、業界共通の標準規格に接続する | 自社固有のWebサイトや特定取引先との個別データ連携が中心 |
| データの標準性 | 仕訳・勘定科目など、業界横断で形式が定まっているデータを扱う | 案件の進捗ステータスなど、自社独自の分類体系で管理している |
| 業務固有度 | どの会社でも概ね共通する法規制・定型業務プロセス | 自社の営業フロー・現場ルールに合わせて例外処理を多く運用している |
| 契約人数と課金条件 | 利用者数が増えても、自社で制度追従を内製する負担のほうが重い | 現場全員が利用し「人数×単価」で費用が伸び、要件に合わせた代替設計が取りうる |
| 代替・移行コスト | 仕訳データや過去申告履歴など、移行・検証負担が大きい | 業務データの構造が自社に閉じており、データ移行や連携設計が比較的進めやすい |
いずれか1つの軸だけでも自社にとって必須要件であれば優先して確認が必要です。複数の軸で置き換え候補側に当てはまる場合でも、まずは契約プランの見直しで解決しないかを確認します。給与・人事労務の領域は従業員数に応じた課金になりやすく費用は伸びますが、年末調整や社会保険の様式改定に自社で追従する負担と照らし合わせて総合的に判断します。
乗り換え比較の前に確認しておきたい契約内容の3つの要点
料金が高いと感じた際、すぐに乗り換えや解約を検討するのではなく、まずは現在の契約内容を整理します。契約の妥当性を確かめるために、次の3点を確認します。
- プランのグレードと利用機能の整合性:上位プランを選んだまま、自社で使っていない機能に費用を払い続けていないかを確かめます。
- 契約アカウント数と実利用者の差異:退職者や異動に伴う未使用アカウントが割り当てられたまま放置されていないかを確認します。
- 契約更新の時期と申し出の期日:見直しの判断を進める前に、プラン変更や解約を伝える期限がいつかを把握しておきます。
これらを確認してもなお負担が大きい場合は、残す領域かどうかを見極める段階へ進みます。台帳整理の手順はSaaS費用の棚卸し実務を参照してください。
会計・給与SaaSを「残す」代表例とする理由
freee・マネーフォワードのような会計・給与SaaSを「残すSaaSの代表例」とするのは、両社が優れているからではなく、対応し続けなければならない制度が絶えないためです。なお、本記事は特定の会計ソフトを推奨する趣旨ではなく、制度対応が続く領域を説明する基準として例示しています。
電子帳簿保存法は、税務関係帳簿書類のデータ保存を可能とする法律です。メールやクラウド経由で注文書・領収書・請求書などの取引情報をやり取りした「電子取引データ」は、電子のまま保存することが義務付けられています。2023年12月31日までは一定の要件のもとで宥恕措置として紙出力保存も認められていましたが、2024年1月からは原則として保存要件(改ざん防止・検索機能・見読性の確保)に沿った電子保存が求められます。原則的なルールへの対応が間に合わない場合でも、所轄税務署長が相当の理由があると認め、税務調査時にデータのダウンロードの求めと出力書面の提示・提出の両方に応じられる状態であれば、単にデータを保存しておく猶予措置が用意されています。
インボイス制度(適格請求書等保存方式)は2023年10月1日に開始し、仕入税額控除を受けるには、原則として一定の事項を記載した帳簿と適格請求書等の両方の保存が必要です。ただし、納付税額の計算方法や適用する特例によって仕入税額控除の要件が異なります。
- 簡易課税制度:基準期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者が選択でき、売上税額からみなし仕入率で税額を計算するため、受け取ったインボイスの保存は仕入税額控除の要件になりません(所得税等の帳簿・書類保存義務は別途存続します)。
- 2割特例・3割特例などの経過措置:免税事業者からインボイス発行事業者となった事業者を対象とする2割特例(令和8年9月30日の属する課税期間まで)や、令和8年度税制改正による3割特例(免税事業者から移行した個人事業者の2027年分・2028年分申告が対象)などの負担軽減措置が設けられています。2割特例は法人が2026年9月30日を含む事業年度、個人事業者は2026年分(令和8年分)の申告が最後となり、それより後の課税期間は2027年分・2028年分の申告に限り3割特例を適用できる個人事業者を除き一般課税か簡易課税で申告します(確認日: 2026年10月24日)。法人の対象可否や適用可能な課税期間、各種書類の保存要件などの個別条件は事業形態や決算期によって異なるため、国税庁の最新の案内をご確認ください。
freeeは自社の解説ページで、電子帳簿等保存・スキャナ保存・電子取引保存の3区分に触れ、freee会計を利用することで日々の入力業務の中で適正に保存できる旨を案内しています(利用プランや運用ルールに沿った操作が必要です)。マネーフォワードも公式サポートページで、取引先への適格請求書発行事業者の登録番号設定、仕訳への経過措置設定、消費税計算方法の設定などの対応機能を提供しています。自社でゼロから会計ソフトを開発した場合、こうした国税庁の制度改定や様式変更への追従を自社の開発・運用リソースで維持し続ける必要があります。
料金は両社とも個人事業主向け・法人向けで複数のプランに分かれ、契約人数や機能によって月額費用が変動します。具体的な金額は変更されるため本記事では立ち入らず、最新の金額はfreee公式料金ページ・マネーフォワード公式料金ページでご確認ください。
置き換え候補になりやすい汎用SaaSの見分け方
一方、置き換えの検討対象になりやすいのは、法令への直接的な追従負担が比較的小さい業務を汎用SaaSで運用しているケースです。次のようなサインが当てはまる場合、専用システムへの作り替えを比較する検討材料になります。
- 案件管理・顧客対応・日報・予約・在庫管理などで、汎用SaaSの標準枠に自社の業務手順が収まっていない
- 全社員向けアカウントの契約により、アカウント数×単価で月額費用が大きく膨らんでいる
- 同じ情報を複数のSaaSや台帳へ二重入力する作業が現場で常態化している
- プラン変更や連携ツールの追加を試しても、業務の例外処理を埋める手作業が解消されない
使い倒していること自体が問題なのではなく、標準機能とのズレや二重入力の工数、将来の移行・保守費用を比較したうえで、自社開発のほうが投資対効果に見合うかを見極めることが重要です。
話題となった表現の出所や議論の流れを知りたい場合はSaaS is deadの背景をご覧ください。また、SaaS利用と自社で作る範囲の具体的な線引きについては経費精算のSaaS利用範囲が役立ちます。
自社の契約状況を客観的に整理したい場合は、無料のAI自動化診断も選択肢です。
「残す」と「作り替える」を両立させる設計
現実的な進め方は、全面移行ではなく併用です。AI駆動開発とは、生成AIを前提に要件整理から実装・運用までを進める開発手法で、経営者にとっての違いは「既製の機能の枠内で使う」か「自社の業務に合わせて作る」かです。会計・給与SaaSは残したまま、その前段にある業務システム(案件管理・日報・予約受付など)をAI駆動開発で作り、CSV出力やAPI連携で会計SaaSへつなぐ設計です。
モデルケースとして、従業員20名の会社が、会計・給与SaaSに加えて案件管理SaaS・日報SaaSを契約している場合を想定します(削減効果を保証するものではなく、比較の考え方を示す仮定のモデルケースです)。会計・給与SaaSはそのまま残し、案件管理と日報の2業務を自社専用システムに置き換え、会計ソフトへは月次でCSVを取り込む設計にします。このとき比較の対象になるのは、解約する汎用SaaSのアカウント利用料と、置き換えにかかる初期開発費用・クラウド維持費・月次保守運用費・データ連携の手間です。会計・給与SaaSの利用料はそのまま存続します。削減額や開発期間は要件や連携規模により大きく変動するため、本記事では断定しません。
業務データとAIの担当領域を分離して設計した実例の考え方は、社内実践事例をまとめた〈CASE 06|業務DBと生成AIを、あえて分ける〉(※会計SaaS連携の実績ではなく、DBと生成AIの分離アーキテクチャの事例)で確認できます。
- 1. 周辺業務システム(案件・日報等) 自社固有フローで業務データを入力。アカウント課金の汎用SaaSから専用基盤に置き換えた領域。
- 2. 人によるデータ確認・突合 担当者が締め日に案件売上や経費項目の入力漏れ、重複がないか画面上で確認・確定。
- 3. CSV出力 / API連携 会計SaaSの取込フォーマットに準拠した形式で仕訳・売上データを出力、またはAPIで送信。
- 4. 会計SaaS(freee/MF等) 取り込んだデータに基づき仕訳計上。電帳法やインボイス等の対応機能を活用しつつ、利用プランや自社の運用ルールに沿って保存・処理を管理。
- 5. 取込結果・差分の監査 経理担当者が会計SaaS側でエラーや未処理がないか突合し、月次決算を確定。
※20名モデルケースに基づく設計例であり特定企業の実績値ではありません。項目対応や取込エラーの修正は自社の運用担当者が担います。
AI駆動開発で作り替えると、何がどう変わるか
汎用SaaSで運用していた周辺業務を専用システムに置き換える場合、契約形態はSaaSのアカウント課金から、専用環境での運用・保守に移行する選択肢があります。利用人数が増えてもライセンス料が一律に跳ね上がりにくくなる一方、インフラ利用料や保守費用、機能改修のコストが自社負担となる点に留意が必要です。共有型のまま使う場合との違いは、業務システムは共有型か専用型かで整理しています。
支援体制の一例として、担当エンジニア(FDE: Forward Deployed Engineer)が業務の分解から実装、定着まで伴走する手法があります(FDE型AI導入支援とは)。進め方は、対象を1業務に絞って小さく試作し、実務で検証したうえで段階的に広げる手順が堅実です。費用構造は月額ライセンスから初期開発費および保守費に変わります(金額相場は開発費用の相場解説を参照)。一方で、電子帳簿保存法やインボイス制度、年末調整など法令・様式の追従が続く会計・給与領域は、自社開発で維持し続ける負担と専門人材の確保を考慮すると、既製SaaSの利用を継続する判断が現実的です。
日々の転記や巡回作業を専用の自動化基盤に寄せたアプローチの例は、事例集の〈CASE 02|毎日の巡回・転記を、AIが引き取る〉(※業務自動化の検証事例であり、既存SaaSの解約効果を測定したものではありません)で紹介しています。
よくある質問
freeeやマネーフォワードから乗り換えるべきタイミングはありますか?
制度対応への追従自体は主要な会計ソフトであれば各社が対応を進めるため、制度対応の有無そのものを理由に他社SaaSへ急いで乗り換える必要性は低いです。乗り換えを検討する契機となるのは、自社の業務規模と料金プランの不一致、操作性や他システムとのAPI連携の相性など、製品ごとの個別仕様を見直したい場合です。
電子帳簿保存法やインボイス制度に対応するSaaSは、なぜ作り替えに向かないのですか?
国税庁の制度改定に合わせた保存要件・様式への追従が継続的に必要なためです。自社開発に置き換えると、制度追従を自社の開発リソースで担うことになります。
会計SaaSは残して、他の業務だけAI駆動開発に置き換えることはできますか?
できます。会計・給与SaaSは残したまま、案件管理や日報など業務固有の汎用SaaSだけを専用システムに置き換え、CSVやAPIで会計ソフトへ連携する設計が現実的な選択肢になります。
SaaS費用の見直しは、何から手をつければよいですか?
契約しているSaaSを1枚の台帳に洗い出し、重複・遊休契約を確認するのが最初の一歩です。詳しい手順はSaaS費用の棚卸し実務にまとめています。
会計ソフトの料金プランを下げると制度対応に支障は出ますか?
提供事業者やプランのグレードによって対応機能が異なるため、一概には断定できません。自社に必要な制度追従機能が下位プランに含まれているかどうかは、各社が公開している料金表で最新の機能範囲を確認したうえで判断する必要があります。
「SaaS is dead」という言説の背景は「SaaS is dead」とは何か、SaaSを解約する際の実務は脱SaaSのよくある質問20、大規模SaaSの総保有コストの考え方はSalesforceの5年総コストはいくらか、会計・経理領域でのAI活用は経理業務のAI活用で扱っています。料金改定を機に見直す場合の備え方はSaaS値上げの事実と対策、業務別の線引きはCRM・SFA・勤怠・請求・在庫・予約・日報・ワークフロー・経費精算・販売管理・採用の各記事にあります。
自社のどの業務からAI化すべきかを知りたい方は、無料のAI自動化診断をご利用ください。自社の業務に合わせたシステムをAI駆動開発で作る場合の相談・見積りは、株式会社Walkersのシステム開発事業で受け付けています。本記事は、FDE型のAI導入支援を行う株式会社Walkersが運営しています。
参考
執筆時点(2026年9月8日時点、インボイス制度特例関連は2026年10月9日・2026年10月24日再確認)の各公式サイトの公開情報に基づきます。制度・仕様・料金は予告なく変更される場合があるため、最新情報は各公式サイトでご確認ください。
- 電子帳簿等保存制度特設サイト|国税庁(取得日 2026-09-08)
- インボイス制度について|国税庁(取得日 2026-09-08)
- 令和8年度税制改正特集(3割特例)|国税庁(取得日 2026-09-21、再確認 2026-10-09・2026-10-24)
- 2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)の概要|国税庁(取得日 2026-09-21、再確認 2026-10-09・2026-10-24)
- 仕入税額控除をするための帳簿及び請求書等の保存|国税庁 タックスアンサー No.6496(取得日 2026-09-08)
- 適格請求書等保存方式(インボイス制度)|国税庁 タックスアンサー No.6498(取得日 2026-09-10)
- 電子帳簿保存法対応!令和6年1月以降の電子取引データの保存方法について|国税庁(PDF・取得日 2026-09-08)
- 年末調整がよくわかるページ|国税庁(取得日 2026-09-08)
- 電子帳簿保存法とは?対象書類や2024年改正のポイントを解説|freee(取得日 2026-09-08)
- 「インボイス制度」の概要とマネーフォワード クラウドでの対応方法|マネーフォワード クラウド会計サポート(取得日 2026-09-08)
- 小規模〜中小企業向け料金プラン|マネーフォワード クラウド会計(取得日 2026-09-08)
- freee製品の料金一覧|freee(取得日 2026-09-08)
