業務システムの検討では、「パッケージ」「スクラッチ」「受託開発」「SaaS」「専用型(1顧客=1デプロイ)」という言葉がよく並びます。ただしこれらは排他的な分類ではなく、「既製品か個別開発(スクラッチ等)か(作り方)」「共有基盤か分離環境か(インフラ構成)」「納品完了(一括請負等)か継続保守・伴走か(支援契約)」という別の判断軸が混ざり合ったものです。専用環境での個別実装が向くのは会社の規模ではなく、自社固有の手順が業務の中心にあり、しかもそれが変わり続けている会社です。それぞれの軸を整理したうえで、SaaS・受託開発・専用型を5つの観点で比べ、費用や運用、向かない場合の見分け方まで解説します。
共有型と専用型は、何が違うのか
- 軸1:システムの作り方 パッケージ・既製SaaS(設定変更で業務に合わせる)か、スクラッチ・個別開発(自社固有の業務に合わせて画面・処理を実装する)か。
- 軸2:インフラの分離構成 マルチテナント(複数企業で基盤を共有する構成)か、シングルテナント(1社ごとに環境を分離して構築する構成)か。
- 軸3:導入後の支援・契約形態 納品検収・自力運用型(仕様確定・改修や保守は別契約・都度見積)か、継続支援・伴走型(月額等の枠内での継続改善や導入支援。FDE伴走など)か。支援範囲や費用条件は契約形態により異なります。
これらは独立した軸であり自由に組み合わせられます(例:専用環境で個別開発しつつFDE伴走を行うのがFDE-NOAHのモデルです)。
共有型は、提供元が用意した一つのシステムを、多数の企業が同時に使う方式です。マルチテナント(多数の利用企業が同じ基盤を共有する構成)とも呼ばれます。機能の追加も不具合の修正も提供元がまとめて行います。世の中の汎用SaaSの多くはこの形です。そのかわり、自社の業務は提供された機能の側に合わせることになります。
専用型は、1社ごとに環境を分けて配置する方式です。「デプロイ」はシステムを動く状態で配置することを指すため、1顧客=1デプロイとは、その配置を顧客ごとに1つずつ持つシングルテナント型の構成を意味します。FDE-NOAHの公式サイトは、この方式を「FDE-NOAHは、1顧客=1デプロイ。汎用ツールに御社の業務を合わせるのではなく、担当FDEが御社の業務にFDE-NOAHのほうを合わせていきます」と説明しています。ここでいうFDE(Forward Deployed Engineer)とは、顧客の現場に入り込み、業務の分解から実装、運用の定着までを担うエンジニアを指します。データの保存先についても、公式サイト(2026年9月15日確認)では「御社専用のデータベース・実行環境に保存されます。他社とインフラを共有しません」と案内されています(公表資料で確認できる範囲は専用データベース・実行環境の提供までであり、物理基盤やクラウドアカウント、ネットワーク等の分離範囲までは確認できないため、詳細な構成は個別確認が必要です)。
汎用SaaSの典型例とFDE-NOAHのような専用型サービスの対比において、分かれ目は機能の多さでも料金の多寡でもありません。汎用SaaSでは業務をシステムの標準仕様に合わせる運用になりやすく、FDE-NOAHのような専用型個別実装ではシステムを自社の業務に合わせて構築・調整していきます。ただし、どこまで業務に合わせて変えられるか、導入後に誰が支えるかは、基盤の分離構成そのものだけでなく、提供内容や開発・保守契約によって決まります。同じ「業務システムを導入する」という言葉で語られていても、この組み合わせによって導入後の景色が変わります。
なお、専用型といっても、1社ごとにゼロから作り直すわけではありません。FDE-NOAHの場合、画面群や実行のしくみ、外部サービスとの標準的な接続は共通の土台を使い、その会社固有の業務の流れや帳票、連携先だけを個別に実装する形を取っています。すべてを個別に開発する形とも、すべてが共通の汎用SaaSとも違う、中間の構成だと考えると位置づけをつかみやすくなります。
5つの観点で共有型と専用型を比べる【早見表】
システムの選定では、機能の比較だけでなく「業務が変わったときにどう対応できるか」という契約形態と運用の違いが重要です。ここでは典型的な汎用SaaS(マルチテナント型)、一般的な受託開発、そして専用環境で伴走運用を行うFDE-NOAHの3パターンを例に、確認すべき5つの観点を整理します。
なお、受託開発でも契約次第で専用環境の構築や月額保守・追加開発の継続は可能ですし、SaaSでも導入支援サービスやAPIによる外部連携が提供される場合があります。以下の表はそれぞれの一般的な傾向と、FDE-NOAH公式で示されている提供条件を比較の参考例として並べたものです。
| 観点 | 汎用SaaS(典型例) | 受託開発(一括請負の典型例) | 専用型伴走(FDE-NOAHの公表条件) |
|---|---|---|---|
| データの置き場所 | 提供元が運営する共有基盤(マルチテナント) | 発注時に取り決めた基盤(個別構築) | 自社専用のデータベースと実行環境(公式案内による。物理層・ネットワーク等の分離範囲は要確認) |
| 業務との合わせ方 | 提供元の機能・設定に合わせて業務を調整 | 要件定義で定めた仕様に合わせて開発 | 自社の業務フローに合わせて個別に実装・調整 |
| 変えたいとき | 提供元のアップデート・設定変更の範囲 | 仕様変更や追加開発の都度、見積・再発注 | 契約月額の範囲内で追加実装(公表案内による) |
| 導入後の体制 | 社内での自力定着(オプション支援等あり) | 検収・納品で完了。保守改善は別途契約 | 担当FDEが運用・改善・保守を継続支援(公表案内による) |
| 費用の構造 | 月額・年額の利用料(人数やプラン単位) | 開発初期費用の一括見積+月次保守費用 | 完全月額制(初期構築費0円・公表条件による) |
この表で先に見るべきは「変えたいとき」の行です。検討中は機能一覧の比較に目が行きますが、実際に効いてくるのは、使い始めたあとに業務が変わったとき、誰がどれだけの手間と費用を負うかの違いです。汎用SaaSでは、一般に、提供元が「その機能を作る」と決めるまで待つことになります。受託開発では、一般に、変更のたびに見積と発注をやり直します。FDE-NOAHでは、月額の範囲で追加していくと案内されています。どこまでが範囲に入るかは、見積りの段階で確かめてください。
「導入後の体制」の行も、平時には見えにくい項目です。導入して終わりにならない業務ほど、誰が面倒を見続けるのかが後から効いてきます。契約中のシステムをこの表に当てはめ、自社がいまどの列に近いのかを確認してみてください。
この3つに内製を加えた4類型としての比較は、AI導入の頼み方4類型を比較で扱っています。
なぜ1社ごとに分けるのか
1社ごとに分けるかどうかは、機能の設計以前に、開発の費用をどこへ投じるかの選択です。Walkersは、FDE-NOAHを設計するときに次のように考えました。多数の企業が同じ基盤を共有する構成では、他社のデータが見えないことを保証するしくみに、開発コストの多くを投じることになります。1社ごとにデータベースと実行環境を分ける構成では、同じデータベースの中で他社のデータと隣り合うこと自体がありません。そこに費やすはずだった分が空きます。
では、空いた分は何に向かうのか。Walkersの解説では、FDE-NOAHにおけるコストや工数の主な投資先は、新しく契約した企業の固有業務をどれだけ迅速にシステムへ反映できるかという点にあります。マルチテナント基盤の安全な共有化にリソースを割くか、個別企業の業務実装の即応性に割くかという設計方針の違いです。ただしこれはWalkersにおけるサービス設計の判断であり、環境を分離すれば自動的に開発期間や運用コストが下がるわけではありません。専用環境であっても、個別環境ごとの監視、セキュリティパッチの適用、権限管理といった運用管理コストは発生します。
Walkersの解説記事は、同社が専用型・個別実装の組み合わせで差が出る点として二つ挙げています。一つめは、画面と処理をその会社の業務手順に合わせて実装できることです。汎用的なパッケージやSaaSの標準利用では、用意された設定項目の範囲で業務に寄せる設計が多くなります。寄せきれなかった分は、消えてなくなるのではなく、現場の手作業として残ります。二つめは、データが独立した環境に置かれることです。
現場に残る手作業とは、一般には、たとえばツールAの画面を見ながらツールBに同じ内容を打ち直す、出力された一覧をいったん表計算ソフトに貼って並べ替える、といった作業です。一件あたりは短く、担当者も慣れているため、費用として数えられることはほとんどありません。それでも、件数が増えればそのぶん人手が要るという構造は残ったままです。この積み上がりは、システムの機能一覧を並べて比べても見えてきません。
同じ記事は、構築して終わりにしない前提もこの形と組になっていると説明しています。業務の手順やつないでいるツールの仕様が変わり続ける前提に立ち、開発に携わったエンジニアが運用や改善も継続して担うモデルです。業務の文脈を把握しているエンジニアが伴走することで、変更のたびに仕様を一から説明し直す引き継ぎの負担を抑えやすくなります。この形を選ぶ理由のうち、導入したあとに効いてくるのはこの継続支援の部分です。
作る側から見た設計の判断は、1顧客1デプロイで導入する理由(Walkers)で詳しく説明されています。使う側の判断材料としては、ここまでの「業務に合わせて実装できるか」「データが独立しているか」「変えたいときに誰が動くか」の3点で足ります。
費用と運用は、月額に何が含まれるかで見る
費用は、金額の大小より先に、何に対して払っているのかという構造で見ます。汎用SaaSの利用料は、契約したプランと人数に応じて発生します。受託開発は、要件を積み上げた一括見積で契約時に金額が決まり、納品後の保守は別の契約になるのが一般的です。どちらも、業務が変わったときの対応が契約に含まれるかどうかは、事前に確かめておく点です。含まれなければ、費用はその時点で改めて発生します。
FDE-NOAHの費用体系は完全月額制と公表されており、初期構築費はかからないと案内されています。月額には、担当エンジニアによる運用・改善・保守が含まれると案内されています。業務が変わり続ける状況に対応し、エンジニアが継続して伴走支援を行う前提です。FDE-NOAHの月額は、システムの利用だけでなく、業務に合わせ続ける作業に対して払う形だといえます(担当者の固定や対応範囲は契約条件の確認が必要です)。
金額そのものは、対象業務の範囲や会社の規模によって変わります。個別の見積りは、後述する業務棚卸しの段階で示されます。開発にかかる費用の相場観を先に把握しておきたい場合は、AI駆動開発費用の相場まとめを参照してください。月々の利用料が数年分でどれくらいの総額になるかを自社で試算する際は、SaaSの5年総額と自社開発の費用を比較する考え方をまとめた記事が参考になります。
もう一つ、費用の見直しという観点では、すべてを専用型に寄せる必要はありません。会計や給与のように制度対応が続く領域は汎用SaaSに残し、自社固有の手順が絡む部分だけを専用型に移す、という組み合わせも取れます。残すものと置き換えるものの切り分けについては、残すSaaSと置き換えるSaaSの見極め基準で整理しています。
専用型が向いている会社・向かない会社
専用型が向くかどうかは、会社の規模ではなく、対象になる業務の性質で決まります。Walkersの解説記事は、向いている業務の条件を次の4つに整理しています。
- 毎日、あるいは毎週、同じ手順で繰り返している
- 判断の分かれ目を言葉にできる(過去の事例からでも構わない)
- 複数のツールにまたがり、人が転記でつないでいる
- 見落とすと損失や信用の毀損につながる
反対に、向かない業務も同じ記事にはっきり書かれています。
- 前例のない、一回限りの意思決定
- 判断の基準が人によって異なり、社内の合意がない
- 既製のツールで標準的に回っている
- 件数が少なく、手作業でも負担になっていない
標準的な手順で回る業務しか対象がないなら、既製のツールを買うほうが安く、早いとされています。無理に個別実装しても、追加の開発や運用の負担に見合う効果を得にくい場合があります。もう一つ、対象業務の手順と判断の基準を説明できる担当者を出せない場合は、実装の材料が集まらず、そもそも進みません。これは予算の問題ではなく、社内の時間をどこに使うかの問題です。
会社の側の条件としては、FDE型AI導入支援の解説記事が、向かない会社を5つ挙げています。業務が既製品の想定どおりに回っている会社、仕様がすでに確定している会社、規制や守秘の事情で現場に外部を入れられない会社、成果物を他社にも売れる製品として求めている会社、そして業務を見せる時間を誰も出せない会社です。外部に業務を見せられるか、見せる時間を出せるかは、検討の前に社内で確かめておく価値があります。どちらも、契約してから分かっても手遅れになりやすいためです。
どの業務から手をつけるかという見極めは、共有型か専用型かを決めるより前の話です。最初の1業務の選び方は、AI導入はどこから始める?で扱っています。パッケージ製品のサポート終了のように、外側の事情で入れ替えの時期が決まる場合の判断は、奉行11シリーズのサポート終了はいつかで具体例を扱っています。
専用型はどう始めるか
専用型は、最初から全社分を一度に作る形では始まりません。FDE-NOAHの場合は、AI効率化診断、ヒアリング、業務棚卸し(Phase 0)、専用環境の構築、FDE伴走運用という5つのステップで進みます。このうちAI効率化診断と、Phase 0の業務棚卸しは、無料のアセスメントとして行われます。
順番には意味があります。棚卸しで対象になりうる業務を洗い出し、優先度の高い1業務を選び、それだけを動く形にしてから、広げるかどうかを判断します。公式サイトのよくある質問も「動くものを見てから、広げるかどうかを判断してください」と書いています。先に全体像を固めてから作るのではなく、1業務が動いた時点で判断をやり直す進め方です。
この進め方は、棚卸し、最初の1業務、動く状態の確認、拡張という4つの段に分かれています。段ごとに区切ってあるので、動くものを見てから、対象を広げるかどうかを判断できます。全体を先に設計して一度に作る形だと、途中で想定と違うと分かったときの手戻りが大きくなりがちです。1業務ずつ確かめる形は、その戻り幅を小さくするための順番です。契約期間や終了の条件は、見積りの段階で確かめてください。
棚卸しの段階で「既製品で足りる」と判断された場合は、そのまま伝えられるとされています。専用型を勧められる前に、既製品で足りるかどうかが検討される順序になっているということです。あわせて、AIに渡してよい情報と渡してはいけない情報の線引きも、この段階で確認します。専用の環境にデータを置く以上、何を置くかを先に決めておく必要があるためです。
担当エンジニアが業務に入り込んで伴走する進め方そのものについては、FDE型AI導入支援とはにまとまっています。こうした伴走型の進め方を選ぶ前に、FDEとソフトウェアエンジニアの違いを確認して課題の起点や成果の捉え方を整理しておきます。
自社のどの業務が対象になりそうかを先に見ておきたい場合は、無料のAI自動化診断から確認できます。
よくある質問
1顧客=1デプロイだと、費用は高くなりますか?
利用人数の少ない初期段階のツール利用料だけで比べると、既製の汎用SaaSのほうが月額費用は抑えやすい傾向があります。ただし総コストは、利用料だけでなく初期構築、外部連携、運用保守、現場の手作業にかかる社内工数などを含めて比べる必要があります。標準機能で業務が完結するなら既製ツールの利用料が中心になりますが、自社固有の手順に合わせるための受託開発や、ツールの隙間を埋める手作業の工数が膨らむ場合は、運用保守や改修の条件も含めたトータルの費用対効果で比較することが重要です。
社内にエンジニアがいなくても成立しますか?
FDE型の導入支援では成立します。社内に実装できる人がいない状態こそ前提とされており、必要なのは業務を説明できる担当者と、判断を出せる人です。
データはどこに保存されますか?
FDE-NOAHの公式案内(2026年9月15日確認)では、自社専用のデータベースと実行環境に保存され他社とインフラを共有しない旨が案内されています。公表資料から確認できる範囲は専用データベースおよび実行環境の提供までであり、物理基盤やクラウドアカウント、ネットワーク等の分離範囲は個別の仕様確認が必要です。なお、AIに渡してよい情報の線引きは、業務棚卸しの段階で確認します。
マルチテナントとシングルテナントは何が違いますか?
マルチテナントは多数の企業が同じ基盤を共有する構成で、シングルテナントは1社ごとに環境を分ける構成を指します。この記事で説明している「共有型」がマルチテナントに、「専用型」がシングルテナントに対応します。
既製ツールで済む業務との見分け方はありますか?
標準的な手順で回っている業務なら、既製ツールで足ります。複数のツールを人が転記でつないでいる業務は、専用型の対象になりやすい業務です。
自社のどの業務からAI化すべきかを知りたい方は、無料のAI自動化診断をご利用ください。1顧客=1デプロイで提供されるFDE-NOAHの詳細は、FDE-NOAH公式サイトにまとまっています。自社の業務に合わせたシステムをAI駆動開発で作る場合の相談・見積りは、株式会社Walkersのシステム開発事業で受け付けています。本記事は、FDE型のAI導入支援を行う株式会社Walkersが運営しています。
参考
執筆時点(2026年9月15日確認)の各公式情報に基づきます。料金・提供内容は変更される場合があるため、最新情報は各公式サイトでご確認ください。
