求人媒体との連携、応募受付、応募者の個人情報の管理は採用管理SaaSに残すのが基本です。作り替えを検討するのは、自社固有の選考基準・面接日程と現場の連動・複数媒体の応募者データの突合など、標準機能の外側にある業務に限られます。HRMOS採用やsonar ATSのようなATS(採用管理システム)を使う会社ほど、この標準機能の外側という線引きが判断の起点になります。
残す/作り替えの判断表【早見表】
採用管理の業務を、感覚ではなく次の10項目で仕分けます。契約中のATSを1つずつ表に当てはめてみてください。
判定は4種類です。「残す」は管理基盤としてSaaSに置くもの、「残す(標準機能)」は基本プランに含まれるもの、「残す(プラン要確認)」は上位プランや追加オプションの契約が必要な場合があるもの、「作り替え候補」は標準機能や既存オプションでは要件を満たせず、外部連携や専用システムの検討対象になるものを指します。なお、ATSは採用管理システム、エージェントは人材紹介会社、APIはシステム間でデータを送受信する接続仕様を指します。
| 業務 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 求人掲載・応募受付(エントリーフォーム作成) | 残す(標準機能) | 求人ページの作成・公開、応募フォームの設置は主要ATSの基本機能の中心 |
| 応募者の個人情報(履歴書等)の管理 | 残す | 安全管理措置の実務負荷を抑えるため、アクセス制御やログ管理基盤としてATSを活用する |
| 求人媒体・エージェントとの連携 | 残す(プラン要確認) | 機能一覧に掲載されていても、利用する媒体や紹介会社との自動取り込み・進捗共有が基本プランに含まれるかオプション契約が必要かは製品・プランにより異なるため |
| 選考フローの設計・評価フォーム入力 | 残す(プラン要確認) | 機能一覧に掲載されていても、ステップ設計やカスタム評価フォームの利用可能範囲が契約プランに含まれるか確認が必要なため |
| 面接日程調整の自動化(空き時間抽出・候補提示) | 残す(プラン要確認) | 候補者提示やカレンダー連携は基本プランに含まれる場合もあるが、面接官の自動アサインなどはオプション区分の場合があるため |
| 高度な分析レポート・適性検査・AI機能 | 残す(プラン要確認) | 経営分析レポートや適性検査、一部のAIアシスト機能は追加オプション契約が必要な場合があるため |
| 自社固有の選考基準に沿った集計・判定補助 | 作り替え候補 | 基準の設計自体は人が行うが、複雑な採点ロジックや複数評価者の加重集計などを標準フォームや既存設定で再現できない場合に検討 |
| 面接日程調整と現場受け入れ体制(配属先)の連動 | 作り替え候補 | 面接官のカレンダー空き枠だけでなく、配属先部署の受入可能数や現場シフトと連動させる運用は標準機能の外側になりやすいため |
| 未連携媒体や社内別DBとの応募者データ突合 | 作り替え候補 | ATSの標準取り込みや既存のCSVインポート・重複確認機能では対応できず、別DBとの自動名寄せや複合条件の突合が必要な場合に検討 |
| 内定後の入社手続き・労務システム連動 | 作り替え候補 | 利用中の労務サービスへの標準連携機能がなく、既存のCSVエクスポートや手動取り込み等の運用でも業務負荷や転記ミスが解消できない場合に検討 |
見直しを検討する際は、いきなり開発を前提にするのではなく、手作業の発生頻度、採用担当者の実務負担、入力漏れや連絡遅延による影響度を棚卸しします。まずは現行契約のオプション追加やフォーム設定の変更で解消できないかを確認し、それでも対応しきれない領域に絞って外部連携や内製化を検討してください。
安全管理措置は自社システムでも等しく必要|SaaSに残す実務上の理由
個人情報保護委員会の「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」において、個人データを取り扱う事業者は漏えい・滅失・毀損の防止その他の安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければならないと定められています。採用管理システムに登録され検索可能な状態にある応募者の履歴書や職務経歴書は「個人データ」に該当し、安全管理措置の対象となります。
この安全管理措置は、SaaSを利用する場合でも自社専用システムを運用する場合でも等しく事業者に課される義務です。SaaSを導入したことやベンダーが認証を取得していること自体で法的責任が免除されるわけではなく、採用企業側でも適切なアカウント権限の設定や利用ログの確認、不要になったデータの削除運用を規程どおりに実行する責任があります。
そのうえでATSに応募者原本を残す理由は、アクセス制御やログ管理、保存管理の基本枠組みがあらかじめ製品に備わっており、自社で同等のセキュリティ基盤を一から構築・維持管理する実務上の負荷を抑えられる点にあります。なお、自社の取り扱いが関係法令に適合しているかどうかの個別具体的な判断は、弁護士等の専門家にご相談ください。
HRMOS採用・sonar ATSの公表情報【2026年9月10日確認】
HRMOS採用は株式会社ビズリーチが提供する採用管理システムです。公式サイトの機能一覧ページによれば、書類判定アシスト(AI)、選考フロー作成、求人媒体連携(ビズリーチ等との応募者情報連携)、面接日程調整の自動化、書類選考・面接評価、エージェント管理、求人ページ作成、AIによる自動求人生成、タレントプール(将来の候補者データベース蓄積)、リファーラル採用(社員紹介アカウント発行・状況管理)などが掲載されています。料金は初期費用0円(税込・税抜の明記なし)、アカウント数無制限、採用数に応じたプラン体系とされていますが、具体的な利用料は個別見積です。セキュリティ面ではプライバシーマークおよびISO/IEC 27001・27017(適用事業所限定)の取得が掲載されています。また、SmartHR等への内定者情報連携やハーモス労務給与への入社手続き連携機能がある一方、課題分析レポート・経営レポート・コンサルティングは「オプション」区分とされています。
sonar ATSはThinkings株式会社(東京都渋谷区)が運営する採用管理システムです。料金ページによれば、基本プランは月額2.2万円から(初期費用なし、税表記・最低契約期間の公表記載なし)と案内されています。基本プランには求人作成・公開、エージェント連携、応募者管理、採用フロー構築、各種連絡・予約受付の自動化、採用ダッシュボード、クロス集計などが含まれます。一方で、採用AI、LINE連携、適性検査、採用動画配信、面接官アサインなどは「オプション」として案内されています。機能一覧では、面接官と候補者の空き日程に応じた面接日程調整や、流入経路からの応募自動取り込み・重複チェックが掲載されています。セキュリティ面では運営事業部がISO/IEC 27001・27017・27701の認証を取得している旨が掲載されています。
両サービスとも基本機能とオプション区分が明確に分かれており、まずは自社のやりたいことが既存プランや公式オプションで実現できるかを確認することが先決です。どちらが優れているかを比較するものではありませんので、最新の仕様・提供条件は各社公式サイトでご確認ください。
詰まりやすいポイントは「標準機能の外側」にある
採用管理SaaSの標準機能やオプションでカバーしきれず、手作業が残りやすい領域として以下の代表例が挙げられます。
- 自社固有の選考基準に沿った集計・判定補助: 会社独自の配点計算や複数面接官の評価統合など、標準の評価フォームの枠組みに収まらない処理を外部で集計しているケース
- 面接日程と現場(配属先受入体制)の連動: 面接官個人のカレンダー枠だけでなく、配属先チームの繁忙期や受入上限と突き合わせた日程調整が求められるケース
- 未連携媒体や社内DBとの応募者データ突合: ATSの自動取り込みに対応していない流入元や過去の社内タレントリストとの重複確認・名寄せを手作業で行っているケース
- 指定外の労務・基幹システムとの連携: 公式に自動連携が用意されていない人事労務・給与システムを利用しており、内定者情報の転記作業が発生しているケース
これらはSaaSの欠陥ではなく、各社の運用固有の要件です。応募受付や原本管理などの土台はSaaSに残しつつ、こうした個別要件のみを外部連携や専用ツールで補う切り分けが実務的です。
なお、マスターデータを既存DBに残したままAIや外部処理を切り分けるアーキテクチャの考え方については、参考事例として〈CASE 06|業務DBと生成AIを、あえて分ける〉(中小企業向け業務システムでの検証例)でも整理されています。
併用設計 — 応募受付と応募者データはSaaSに、自社固有の選考と連動は自社システムで持つ
現実的な進め方は、全面リプレイスではなく併用です。採用管理SaaSの応募者データをマスターデータ(更新の基準となる原本)として保持し、自社固有の評価集計補助や配属先の受入状況と連動した日程調整補助など必要な処理のみを専用システムで構築するアプローチです。
設計上の要点はデータの往復経路と整合性の維持です。ATSから選考に必要な最小限の項目をAPIやCSV等で取得し、専用側で集計や日程候補の抽出を行います。確定した評価や日程情報は、人が最終確認したうえで、ATS側がサポートしている方法(API経由のステータス更新や一括取り込みなど)で書き戻します。CSV出力だけで自動反映まで完結するとは限らないため、利用中のATSが提供するインターフェースの仕様を事前に確認することが不可欠です。
また、実装前の確認事項として次の3点を定めておく必要があります。第1に、ATSと専用システム間で同一応募者を一意に紐付ける「応募者識別子(システムID)」をキーとして設計し、別人への誤った書き戻しを防ぐこと。第2に、複数媒体経由等で重複候補が検出された場合は自動マージせず、採用担当者が目視で確認・判断するステップを設けること。第3に、応募者の辞退や保存期間満了に伴いATS側で個人情報を削除した際、専用システム側に複製・キャッシュされた個人データも漏れなく削除する同期運用を取り決めることです。これらは構築前に仕様を取り決めるべき要件です。
- 1. 応募受付・原本管理(ATS) 各種求人媒体や紹介会社からの応募情報をATSに集約。氏名・連絡先・履歴書等の正本(マスターデータ)として安全管理措置のもと一元保管。
- 2. 必要最小限のデータを取得 一意の応募者IDをキーにして必要最小限の項目のみをAPIまたはCSVで専用側へ連携。ATS側の削除に連動するデータ消去運用をあらかじめ定義。
- 3. 独自要件の集計・日程調整補助 専用システム側で配属先の受入可能枠を踏まえた日程候補の抽出や、自社ルーブリックに基づく評価のスコアリング・集計補助を実行。
- 4. 採用担当者による確認・意思決定 重複候補の目視確認や判定補助・日程候補をもとに、採用責任者が適性・能力に基づき合否や面接官アサインを最終決定(自動合否決定は行わない)。
- 5. ATSへの選考結果・日程の反映 応募者IDを照合したうえで、決定されたステータスや日程をAPI連携または一括取り込み機能により原本となるATSへ書き戻し、次ステップへ進行。
- 内定後の労務連携 6. 入社手続き・労務連携(分岐) ATSの標準連携機能や手動出力で対応できない場合に限り、内定受諾者データのみを出力・連携する専用経路を設計して引き渡す。
原本は常にATS側に置き、専用システム側は計算・調整の補助に限定します。応募者識別子の照合、重複確認の有人化、ATS側の削除に連動した消去ルールを実装前に設計する必要があります。
モデルケースとして、従業員150名のIT企業を想定します。複数経路からの応募者を1つのATSに集約しているものの、配属先チームの稼働状況を加味した面接調整や、独自の選考ルーブリックに基づく点数集計をスプレッドシートで手作業管理している状況です。原本管理はATSに残し、日程調整の候補選定と評価集計の補助ツールを連携させ、最終的な合否決定は採用責任者が行います。応募者情報を専用環境へ渡す場合は、ATS側と同等のアクセス権限管理や保存・削除ルールを敷く必要があります。なお、削減効果や工数は選考プロセスや利用プランにより異なるため、一律の数値として断定しません。
選考基準を設計する際は、厚生労働省の「公正な採用選考の基本」を踏まえ、職務を遂行するために必要な適性・能力に基づいた基準とすることが原則です。本籍・出生地、家族、住宅環境など本人に責任のない事項や、思想・信条など本来自由であるべき事項を評価対象に含めないよう配慮してください。
自社のどの業務が標準機能の外側にあるかを整理したい場合は、無料のAI自動化診断が出発点になります。
専用システムを併用する場合の体制と費用構造
標準機能の外側を専用システムで補う場合、ATS本体の契約(基本料および利用継続するオプション費用)に加えて、個別構築する仕組みの開発・保守費用が発生します。月額オプションの解約で削減できる費用と、専用システムの開発費・月額運用費を比較して採算性を判断する必要があります(開発費の目安は開発費用の相場解説を参照してください)。
開発手法の一つであるAI駆動開発では、担当エンジニアが業務の棚卸しから実装・定着まで伴走するFDE(Forward Deployed Engineer)型の体制をとることがあります(FDE型AI導入支援とは)。手作業の負担が大きい業務からMVP(実用最小限のプロトタイプ)として段階的に構築・検証を進めます。ただし、年間採用数が少なく既製SaaSの標準機能で無理なく運用できている企業であれば、追加の専用開発を行う必要はなく、SaaS単体での運用を継続するのが合理的です。
標準機能の外側にある巡回や転記作業を自動化した汎用的な設計例は、事例集の〈CASE 02|毎日の巡回・転記を、AIが引き取る〉(定型業務自動化の検証例)にまとめています。
よくある質問
HRMOS採用やsonar ATSを使っているのに、なぜ選考基準や面接日程の調整だけ大変なのですか?
標準的な選考フローを前提に汎用化されているためです。独自の評価集計ロジックや、配属先チームの受入枠とリアルタイムに連動させる面接調整などは、標準機能や単なるカレンダー連携の範囲を超えやすく、手作業の管理が残りやすいためです。
HRMOS採用やsonar ATSを、AI駆動開発システムに完全に置き換えるべきですか?
いいえ。求人媒体連携や応募受付、応募者情報の原本管理はSaaSに残すのが合理的です。安全管理措置の運用負担を抑える観点からも基盤は維持し、標準機能でカバーできない調整や集計補助の領域に限定して連携を検討すべきです。
採用管理SaaSに応募者の個人情報を保管することは法令上の義務ですか?
義務ではありません。個人情報保護法が求める安全管理措置は保管場所をSaaSに限定するものではなく、自社システムでも等しく求められます。権限管理やログ取得などの実務基盤があらかじめ用意されている点が、SaaSを活用する実務上の理由です。
複数媒体・紹介会社の応募者データの突合は、どこまでが「標準機能の外側」なのですか?
ATSと連携済みの媒体経由であれば重複チェック機能が用意されている場合があります。一方、未連携の求人媒体やエージェント、過去に自社で蓄積した別データベースとの名寄せ・突合について、ATSの標準機能や既存のCSVインポート等では対応しきれず、自動での名寄せや複合条件での突合が必要な場合に、個別連携の設計を検討することになります。
残す/作り替えを判断するとき、最初に何を確認すればよいですか?
契約中の採用管理SaaSの機能を、本記事の判断表の10項目に当てはめ、標準機能の外側にある業務がどれだけあるかを洗い出すのが最初の一歩です。
業務別の判断基準は、CRM・SFA・勤怠管理・ワークフロー・稟議・日報・請求・見積・在庫・発注の各記事でも扱っています。横断的な整理は「SaaS is dead」とは何か、残す/置き換えの基本は見極め基準、棚卸し手順はSaaS費用の棚卸し実務、解約等の論点は脱SaaSのよくある質問20をご覧ください。
自社のどの業務からAI化すべきかを知りたい方は、無料のAI自動化診断をご利用ください。自社の業務に合わせたシステムをAI駆動開発で作る場合の相談・見積りは、株式会社Walkersのシステム開発事業で受け付けています。本記事は、FDE型のAI導入支援を行う株式会社Walkersが運営しています。
参考
執筆時点(2026年9月10日確認)の各公式サイト・個人情報保護委員会の公開情報に基づきます。プラン・仕様・料金は予告なく変更される場合があるため、最新情報は各公式サイトでご確認ください。
- 機能一覧|HRMOS(ハーモス)採用(取得日 2026-09-10)
- 料金・プラン|HRMOS(ハーモス)採用(取得日 2026-09-10)
- 機能|採用管理システムsonar ATS(取得日 2026-09-10)
- 料金|採用管理システムsonar ATS(取得日 2026-09-10)
- 個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)|個人情報保護委員会(取得日 2026-09-10)
- 株式会社Walkers「AI駆動開発費用の相場まとめ」(取得日 2026-09-10)
- 株式会社Walkers「FDE型AI導入支援とは」(取得日 2026-09-10)
- 公正な採用選考の基本|厚生労働省(取得日 2026-09-10)
