脱SaaSとは、契約中の月額課金SaaS(クラウドサービス)を全て解約することではなく、自社の業務に合わない契約や重複投資を仕分け、残すべきSaaSと見直すべきSaaSを整理する取り組みです。本記事はSaaSを全否定する立場を取らず、Salesforce・freee・ジョブカンのような業務SaaSを見直す際に寄せられる代表的な20の疑問に、費用・データ移行・セキュリティ・運用体制の観点から一問一答で答えます。
20の質問に共通するのは、「一律には言えない」論点が多いことです。次の早見表に、条件次第になりやすい論点と、自社で確認すべきことをまとめました。
| 論点 | 一律には言えないこと | 確認すべきこと |
|---|---|---|
| 費用 | SaaS解約だけで費用が下がるとは限らない | 代替手段(内製の開発費・保守費、移行費用)との比較試算 |
| 契約 | 中途解約の可否・違約金の有無 | 契約書の「中途解約」「違約金」条項 |
| セキュリティ | 自社開発がSaaSより弱いとは限らない | 誰が脅威情報を継続的に追い、更新し続けるかという運用体制 |
| 法令対応 | 自社開発でも法改正対応は可能かどうか | 改正情報を継続的に追う担当・体制の有無 |
| 開発費用 | AI駆動開発でも一律に安くなるとは限らない | 対象業務の複雑さを踏まえた複数見積もりの比較 |
費用・契約
脱SaaSとは何ですか?
脱SaaSとは、契約しているSaaSを棚卸しし、自社の業務に合わない契約や重複投資を見直す取り組みを指し、SaaSを全て解約することではありません。会計・給与のように法改正対応が必要な領域はSaaSを残し、自社独自の業務に合わない領域だけを個別に見直す「仕分け」が実務の中心です。
SaaSをやめると本当に費用は下がりますか?
契約数やユーザー数課金の構成によって結果が変わるため、一律に下がるとは言えません。解約による月額費用の減少分と、代替手段(内製の開発費・保守費、他SaaSへの移行費用)を比較し、自社のケースで試算する必要があります。削減額を保証するような説明は参考程度に留めてください。
年間契約の途中で解約できますか?
契約条件によります。多くのSaaSは年間契約や自動更新の規定を設けており、中途解約の可否や解約通知の期限は契約書・利用規約に個別に定められています。まず自社が締結した契約書の該当条項を確認し、不明な点はベンダーの窓口に書面で問い合わせてください。
解約時に違約金はかかりますか?
これも契約条件によります。年間契約分を月割りで清算する規定や、残存期間分の費用を請求する規定を設けているサービスもあります。契約書の「中途解約」「違約金」に関する条項を確認し、金額が不明な場合は解約手続きを進める前に書面で確認してください。
自社開発の費用はどのくらいかかりますか?
対象業務の範囲や複雑さ、既存システムとの連携有無によって金額は大きく変わるため、本記事で一律の相場は示しません。AI駆動開発費用の相場を整理した記事を参考に、複数の見積もりを比較したうえで判断することをおすすめします。
データ移行
SaaSに入っているデータは持ち出せますか?
多くのSaaSはCSV等の形式でのデータエクスポート機能を提供していますが、対象データの範囲や形式はサービス・契約プランによって異なります。解約前に、必要なデータを自社が使える形式で書き出せるか、エクスポート機能の対象範囲を公式ヘルプで確認してください。
データ移行はどのような手順で進めますか?
一般的には、移行対象データの洗い出し、移行先の設計・準備、テスト環境での移行と検証、本番切り替え、旧環境を並行稼働させたうえでの停止、という順で進めます。データ項目の対応関係を事前に整理しておくと、後工程の手戻りを減らせます。
移行中に業務を止めずに済みますか?
断定はできませんが、旧SaaSと新システムを一定期間並行稼働させる計画であれば、業務を止めずに移行できる可能性は高まります。一度に全部を切り替えず、部門や機能を区切って段階的に移行するほうが、業務停止のリスクを抑えやすい傾向があります。
過去データはすべて移す必要がありますか?
必要ありません。日常業務で参照する直近データと、法定保存期間が定められている帳簿・証憑類は移行対象にする一方、参照頻度が低い古いデータは、旧SaaS側でエクスポートしたファイルを保管する形でも運用できます。保存義務のある書類は先に洗い出してください。
セキュリティ・法令
自社開発はSaaSよりセキュリティが弱くなりますか?
一律には言えません。SaaSはベンダーが専門チームで継続的に脆弱性対応を行う点に強みがありますが、自社開発でも設計段階からアクセス制御や暗号化を組み込めば同等の対策は可能です。差が出るのは仕組みの有無より、誰が脅威情報を継続的に追い、更新し続けるかという運用体制です。
会計や給与のシステムを自社開発しても法改正に対応できますか?
対応は可能ですが、その責任は自社が負うことになります。国税庁の電子帳簿等保存制度のように、税制改正のたびに保存要件が見直される領域もあります。自社開発する場合は、改正情報を継続的に把握し、システムへ反映する担当・体制をあらかじめ決めておく必要があります。
インボイス制度や電子帳簿保存法への対応はどうなりますか?
国税庁によると、インボイス制度では仕入税額控除の要件として一定の事項が記載された帳簿及び適格請求書等の保存が、電子帳簿保存法では電子取引データの保存が求められています。自社開発でも要件を満たす設計は可能ですが、制度は改正されるため、対応可否は税理士・所轄税務署に確認しながら進めることをおすすめします。
個人情報の管理責任は誰が負いますか?
個人情報保護法は、個人データを取り扱う事業者に安全管理措置を義務付け(法23条)、SaaS等に処理を委託する場合も委託先への必要かつ適切な監督を義務付けています(法25条)。自社開発でもSaaS利用でも、管理責任の主体は自社である点は変わりません。詳細は個人情報保護委員会のガイドラインや専門家にご確認ください。
運用・体制
社内にエンジニアがいなくても内製できますか?
AI駆動開発により、以前より少人数で開発に着手しやすくなった面はありますが、要件整理や品質確認を担う人が社内に一人もいない状態での内製は推奨できません。外部パートナーに継続的に伴走してもらう体制を組むか、まずは影響範囲の小さい業務で試すことをおすすめします。
開発した後の保守は誰がやりますか?
開発を依頼する時点で、保守・改修を誰が担うかを決めておく必要があります。開発だけを請け負い保守契約を結ばない事業者に依頼すると、不具合対応や法改正への追従が滞るリスクがあります。開発と保守の体制はセットで検討してください。
担当者が辞めたらどうなりますか?
属人化した状態で担当者が退職すると、システムの仕様や運用ノウハウが失われるリスクがあります。仕様書や設定内容を文書化しておく、外部パートナーにも状況を共有しておく、複数人で運用に関わるようにしておく、といった対策を、担当者が在籍しているうちに講じておく必要があります。
全部のSaaSを置き換えるべきですか?
置き換えるべきではありません。会計・給与など法改正対応が必要な領域や、社外とも接続する汎用的な連絡手段は、SaaSを残したほうが合理的な場合が多くあります。自社独自の業務に汎用ツールを無理に当てはめている領域から、優先的に見直すのが現実的です。
AI駆動開発との関係
AI駆動開発なら本当に安く作れますか?
条件次第です。AI駆動開発によって、以前は大きな予算が必要だった規模の開発を、より小さな投資で検討できる場面は増えていますが、対象業務の複雑さや品質要件によって費用は変わるため、一律に安くなるとは言えません。複数の見積もりを比較して判断してください。
FDE型AI導入支援とは何ですか?
FDE型AI導入支援とは、業務の分解から実装、運用の定着までを同じ少人数のチームが継続して担当する支援形態です。顧客先にいる時間の長さを前提とせず、1顧客につき1つの専用環境を構築して伴走する点が、共通のSaaSにアカウントを発行する形態と異なります。
まず何から始めればいいですか?
いきなり解約や開発に着手せず、まず契約中のSaaSを棚卸しし、どの業務にどれだけの費用がかかっているかを可視化してください。そのうえで、自社のどの業務からAI活用や見直しを始めるべきかを客観的に診断することをおすすめします。
AI駆動開発で作り替えると、何がどう変わるか
脱SaaSの受け皿としてAI駆動開発を選んだ場合に変わる点を整理します。作るものは、ユーザー数課金や組織単位課金の汎用SaaSから、自社の業務フローに合わせた専用システム(1社1環境)に変わります。解約すべきかの判断だけでなく、作り替えるという選択肢自体の中身も押さえておく価値があります。
体制は、担当エンジニア(FDE)が要件整理から運用の定着まで業務に入り込んで伴走する形が中心です(FDE型AI導入支援とは)。進め方は業務の棚卸し→最初の1業務→小さく作る(MVP)→拡張という順番で進みます(AI導入はどこから始める?)。費用は月額のSaaS費用ではなく、初期開発費用と保守費用という構造になり、金額は要件次第のためここでは扱いません。
法改正への追従が必要な会計・給与や、標準機能で足りている業務は、無理に置き換える対象ではありません。
脱SaaSの背景にある「SaaS is dead」という言説や、SaaSを残すべき領域・見直すべき領域の判断軸は「SaaS is dead」とは何かで詳しく解説しています。会計・経理領域でAIとSaaSをどう使い分けるかは経理業務のAI活用、AI導入全体の進め方は中小企業のAI導入 完全ガイドもあわせてご覧ください。
自社のどの業務からAI化すべきかを知りたい方は、無料のAI自動化診断をご利用ください。自社の業務に合わせたシステムをAI駆動開発で作る場合の相談・見積りは、株式会社Walkersのシステム開発事業で受け付けています。本記事は、FDE型のAI導入支援を行う株式会社Walkersが運営しています。
参考
執筆時点(2026年9月7日確認)に各公式サイトで確認できた内容に基づきます。制度は改正されることがあるため、最新の要件は各公式サイトでご確認ください。
- 国税庁「電子帳簿等保存制度特設サイト」(確認日: 2026年9月7日): https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/tokusetsu/index.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.6498「適格請求書等保存方式(インボイス制度)」(確認日: 2026年9月7日): https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6498.htm
- 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」(確認日: 2026年9月7日): https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/guidelines_tsusoku/
- 株式会社Walkers「『シミュレーション付き』AI駆動開発費用の相場まとめ」(確認日: 2026年9月7日): https://walker-s.co.jp/ai/development-cost/
- 株式会社Walkers「FDE型AI導入支援とは」(確認日: 2026年9月7日): https://walker-s.co.jp/ai/fde-ai-implementation/
