Slack・Salesforce・freee…SaaS費用の棚卸し実務 — アカウント数×単価の見える化手順(チェックリスト付き)

SaaS費用を1枚の台帳で見える化 — アカウント数×単価の棚卸し実務

SaaS費用の棚卸しでまずやるべきことは、複雑な分析ではありません。契約しているサービスを「サービス名×用途×ユーザー数×単価×更新月」で1枚の台帳にまとめることです。台帳ができると、同じ用途のツールが重複していないか、退職者のアカウントが残っていないか、契約人数と実際の利用人数がずれていないかが一覧で見えるようになります。本記事では、台帳のテンプレートと記入例、洗い出しから見直し判断までの手順、重複・遊休の見つけ方、実施前チェックリストを解説します。

目次

SaaS費用の棚卸し、最初の一歩は「1枚の台帳」をつくること

SaaS費用が見えにくくなるのは、契約情報が部門や担当者ごとにばらけているためです。分析ツールを探す前に、次の12項目を横に並べた台帳を1枚用意してください。

サービス名 用途(カテゴリ) 契約プラン 契約ユーザー数 実利用ユーザー数 単価 月額 年額 契約期間・更新月 解約通知期限 社内担当 利用実態メモ
Aチャットツール(例) 社内コミュニケーション スタンダード 20 14 700円/ユーザー/月 14,000円 168,000円 年契約・4月更新 更新60日前 総務部 営業部の利用が少なく、退職者2名分のアカウントが残存
Slack(プロプラン) 社内コミュニケーション(チャット) プロ・年払い 20 20 925円/ユーザー/月※1 18,500円 222,000円 契約書で要確認 契約書で要確認 情報システム部 全社員が日常的に使用、重複ツールなし
freee会計(法人スタンダード) 会計 スタンダード・年払い 組織単位(人数上限は契約内容による) 5 8,980円/月〜・組織単位※2 8,980円 107,760円 契約書で要確認 契約書で要確認 経理部 経理業務をこのシステムに集約、重複ツールなし

1行目は架空の一般例、2〜3行目は実在サービスの公式サイト価格を使った記入例です(※1 Slack公式サイト「料金」の年払い時単価、2026年9月8日確認。※2 freee公式サイト「料金」に掲載の法人向けスタンダードプラン月額、2026年9月8日確認。金額は実際の契約内容により変動し、税込・税抜の区分は各公式サイトの表記に準拠しています)。Slackとfreee会計では「単価」の意味が異なりますが、その違いは後の章で扱います。契約書を確認しないと分からない項目は、空欄のままにせず「契約書で要確認」と書いてください。空欄は、後から「誰かが確認しただろう」と見過ごされる原因になります。

台帳はどう埋めていくか — 洗い出しから見直し判断までの7ステップ

台帳は思いつきで埋めるより、次の順番で進めると手戻りが少なくなります。

  1. 請求明細と管理画面からの洗い出し: クレジットカード明細・銀行引き落とし明細・各SaaSの管理画面(請求先ページ)を突き合わせ、契約中のサービスを漏れなくリストアップします。部門ごとに契約されている場合は、各部門の担当者にも契約の有無を確認します。
  2. 用途分類: チャット、CRM、会計、勤怠、ストレージなど、業務カテゴリでサービスをグルーピングします。同じカテゴリに複数のサービスが並んだ時点で、重複の可能性が見えてきます。
  3. ユーザー数の実態確認(アクティブ率): 契約ユーザー数と、管理画面のログイン履歴から分かる実利用ユーザー数を突き合わせます。ユーザー数課金のサービスほど、この差がそのまま無駄な支出になります。
  4. 年間コスト算出: カテゴリ・サービスごとに「単価×人数×12か月」または「組織単位の月額×12か月」で年間コストを算出し、金額の大きい順に並べます。
  5. 重複・遊休の抽出: 次章の4パターンを手がかりに、同じ役割のツールの併用、退職者アカウントの残存、上位プランの機能未使用、部門ごとの個別契約がないかを洗い出します。
  6. 更新月カレンダー化: 契約期間・更新月・解約通知期限を1つのカレンダーにまとめます。通知期限を過ぎると、見直したくても自動更新されてしまいます。
  7. 見直し判断: 台帳が揃った段階で、残すべきサービスと見直し候補を仕分けます。仕分けの判断軸は「SaaS is dead」とは何かの判断表に整理しているので、そちらを基準に使ってください。

重複・遊休はどこに隠れているか — よくある4パターン

棚卸しで実際に見つかりやすいのは、次の4パターンです。パターンごとに確認方法を変えると見落としが減ります

よくあるパターン 具体例 確認方法
同カテゴリの併用 チャットツールとWeb会議ツールでそれぞれ議事メモ機能を使っている、CRMと別の案件管理ツールを両方契約している カテゴリ列で台帳を並べ替え、同じ役割のサービスが2つ以上ないか確認する
退職者アカウント残存 半年前に退職した社員のアカウントが、ユーザー数課金のまま残っている 管理画面のユーザー一覧と、現在の在籍者名簿を突き合わせる
上位プランの機能未使用 契約時に必要だと判断した機能が、実際にはほとんど使われていない 契約プランの機能一覧と、実際に使っている機能を照合する
部門ごとの個別契約 営業部と管理部が別々にオンラインストレージを契約している 部門ごとの契約状況を1つの台帳に集約し、契約日・金額を並べて比較する

上位プランの機能未使用は、価格帯の幅が大きいカテゴリほど起きやすい問題です。たとえばSalesforceのSales Cloudは、Starter Suite月額3,000円/ユーザーからEnterprise月額21,000円/ユーザーまで、複数の価格帯を公式サイトで公開しています(2026年9月8日確認)。上位プランほど機能は増えますが、契約時に必要だと判断した機能を今も使っているかどうかは別の話です。特定のプランを推奨する趣旨ではなく、価格帯の差が大きいカテゴリほど契約プランと実際の利用機能の照合を優先したほうがよい、という一般的な傾向として押さえてください。

ユーザー数課金と組織単位課金、何が違うのか

台帳の「単価」欄は、SaaSによって意味が異なります。大きく分けると、ユーザー数に応じて金額が変わる課金と、組織単位で金額が決まる課金の2種類があります。

Slackは、公式サイトの料金ページによると、プロプランが年払いでユーザー1人あたり月額925円、ビジネスプラスが同じくユーザー1人あたり月額1,920円です(2026年9月8日確認)。SalesforceのSales Cloudも、Starter Suiteが月額3,000円/ユーザーというように、ユーザー数に応じた課金です(2026年9月8日確認)。この課金モデルは、従業員が増えるほど費用が比例して増えていきます

一方freee会計は、公式サイトの料金ページによると、法人向けスタンダードプランが月額8,980円〜(年払い)という組織単位の料金です(2026年9月8日確認)。組織単位の課金は、利用人数が増えてもすぐには金額が変わらない設計になっている点が、ユーザー数課金と異なります(人数の上限や追加費用の有無はプランごとに異なるため、契約内容の確認が必要です)。

この違いは見直しの優先順位にも影響します。ユーザー数課金のサービスは、退職者アカウントの放置や実利用率の低さがそのまま費用に直結するため、台帳の「契約ユーザー数」と「実利用ユーザー数」の差を優先的に確認する価値があります。組織単位課金のサービスは、人数の増減よりも、契約プラン自体が自社の規模に合っているかを確認する視点が中心になります。

棚卸しを進める前に確認したいチェックリスト

次の10項目は、棚卸しに着手する前、または台帳が一通り埋まった段階で確認してください。

No. 確認項目 確認方法の目安
1 契約中の全SaaSを部門をまたいで一覧化したか 請求明細・カード明細・各SaaSの管理画面を突合したか
2 台帳の12項目に空欄のまま放置している行がないか 「契約書で要確認」等、次のアクションが分かる形で埋めたか
3 契約ユーザー数と実利用ユーザー数の差を数えたか 管理画面のログイン履歴やアクティブ率で確認したか
4 退職者・異動者のアカウントが残っていないか 直近半年の入退社名簿と突合したか
5 同じ用途のツールが複数契約されていないか カテゴリ列で並べ替えて確認したか
6 上位プランのまま使っていない機能がないか 契約プランの機能一覧と実際の利用機能を照合したか
7 カテゴリごとの年間コストを算出したか 金額の大きい順に並べたか
8 契約更新月・解約通知期限をカレンダー化したか 通知期限からの逆算で確認予定日を決めたか
9 法改正対応や社外連携など「残すべき理由」がある契約を区別したか 会計・給与・社外接続系を先に仕分けたか
10 見直し候補の判断を1人で決めていないか 実際に使っている部門にヒアリングしたか

棚卸しの目的は「解約」ではなく、合っている契約の確認

SaaSコストの削減を目的に棚卸しを始める会社は少なくありません。しかし棚卸しをすると、契約を切ることそのものが目的だと誤解されがちです棚卸しが明らかにするのは、自社の契約が今の実態に合っているかどうかであり、結論は解約とは限りません。

残すべきSaaSも実際にあります。会計・給与計算のように法改正への追従が必要な領域や、取引先・パートナーとの間で使う社外連携が前提のコミュニケーションツールは、自社で作り込むより、専門ベンダーが継続的に更新してくれる価値のほうが大きい領域です。棚卸しの結果、こうした契約は「残すべき」に分類されます。判断の視点は「SaaS is dead」とは何かで、制度対応の有無・データの分散度合い・課金モデル・運用実態の4つに整理しています。手順7の見直し判断は、この判断表に台帳の内容を当てはめる作業です。

見直し候補になった契約についても、契約途中の解約・違約金・データの持ち出しなど、実務で迷いやすい論点は脱SaaSのよくある質問20で一問一答にまとめています。経理・会計領域でAIとSaaSをどう組み合わせるかは経理業務のAI活用、棚卸しの前提になる業務全体の進め方は中小企業のAI導入 完全ガイドで解説しています。

見直し候補が「別の汎用SaaSへの乗り換え」ではなく「自社の業務に合わせた作り込み」に向いている場合もあります。既製品で足りる業務か、自社向けに作り込む必要がある業務かという判断軸は、AI導入支援会社の種類で整理しています。自社の業務のどこにAI活用や作り込みの余地があるか判断に迷う場合は、無料のAI自動化診断で材料を得る方法もあります。

AI駆動開発で内製に切り替えると、何がどう変わるか

棚卸しの結果、汎用SaaSではなくAI駆動開発による作り込みを選ぶ場合、変わる点を整理します。作るものは、ユーザー数課金や組織単位課金の既製サービスから、自社の業務フローに合わせた専用システム(1社1環境)になります。

体制は、担当エンジニア(FDE)が要件整理から運用の定着まで業務に入り込んで伴走する形が中心です(FDE型AI導入支援とは)。進め方は業務の棚卸し(本記事の台帳作成もその一部です)→最初の1業務→小さく作る(MVP)→拡張という順番で進めます(AI導入はどこから始める?)。費用は月額のライセンス費用ではなく、初期開発費用と保守費用という構造になり、金額は要件次第のためここでは扱いません。

法改正への追従が必要な会計・給与や、標準機能で十分な業務は、内製に切り替える対象には向きません

よくある質問

SaaS棚卸しにはどれくらいの期間がかかりますか?

契約数や部門数によって幅があるため、一律の期間は言えません。台帳の枠を先に作り、請求明細がすぐ揃う部門から埋めていくと、着手のハードルが下がります。

ユーザー数課金のSaaSと組織単位課金のSaaSは何が違いますか?

ユーザー数課金は従業員数の増減がそのまま費用に反映されます。組織単位課金は人数が増えてもすぐには金額が変わりません。台帳の単価欄を見る際は、どちらの方式かを区別してください

重複契約に気づいたら、すぐ解約していいですか?

すぐの解約はおすすめできません。契約途中の解約には違約金が発生する場合があり、代替手段への移行も必要です。次の契約更新月を起点に、解約通知期限から逆算して検討してください。

棚卸しは誰が担当すべきですか?

管理部門だけで完結させるのは避けたほうが安全です。契約の全体像を集約する役割に加えて、実際にツールを使っている各部門への実態確認が欠かせません

自社のどのSaaSから見直すべきかを客観的に知りたい方は、無料のAI自動化診断をご利用ください。自社の業務に合わせたシステムをAI駆動開発で作る場合の相談・見積りは、株式会社Walkersのシステム開発事業で受け付けています。本記事は、FDE型のAI導入支援を行う株式会社Walkersが運営しています。

参考

執筆時点(2026年9月8日確認)に各公式サイトで公開されていた情報に基づきます。価格は変更される場合があるため、最新の金額は各公式サイトでご確認ください。

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