「SaaS is dead」とは何か — Salesforce・freee・kintone…積み上がる月額SaaSをAI時代に見直す経営者ガイド

「SaaS is dead」とは — 毎月のSaaS費用の帳票と残す・見直すの仕分け図

「SaaS is dead」とは、AIエージェントの普及によってSaaS(月額課金のクラウドサービス)の構造が再編される、という言説です。発端はMicrosoft CEOのサティア・ナデラ氏の発言と、Klarna社のSaaS解約表明でした。ただしSaaSが不要になるという意味ではありません本記事はSaaSを全否定せず、AI時代に積み上がった月額SaaS費用と契約構成を見直す視点として扱います。

目次

「SaaS is dead」という言説はどこから来たのか

最初の発端は、Microsoft CEOのサティア・ナデラ氏が2024年12月12日に配信されたポッドキャスト「BG2 Pod」(Bill Gurley氏・Brad Gerstner氏との対談)で語った発言です。ナデラ氏は既存のビジネスアプリケーションについて、”they are essentially CRUD databases with a bunch of business logic”(本質的には、大量の業務ロジックを伴うCRUD〈データの登録・参照・更新・削除〉データベースに過ぎない)と表現したと報じられています。そのうえで、この業務ロジックがAIエージェント側に移り、複数のデータベースをまたいで処理を担うようになるという将来像を語っています。

「SaaS is dead」という言葉自体は、ナデラ氏が使った表現ではありません。この発言を受けたメディアや論者が、要約フレーズとして使い始めたものです。氏が語ったのは「SaaSが消える」ということではなく、「業務ロジックの置き場所がアプリケーション個々からAI層へ移る可能性がある」という、アーキテクチャの変化についての予測です。

この言説をさらに広めたのが、決済サービスを手がけるKlarna社の事例です。同社CEOのSebastian Siemiatkowski氏は投資家向け電話会議で、”a combination of AI, standardization, and simplification”(AI・標準化・簡素化を組み合わせた社内の取り組み)によって、Salesforceの利用をすでに停止し、数週間以内にWorkdayも停止すると述べたと、2024年9月に報じられています。この発言は「KlarnaがSaaSをAIに置き換えた」という文脈で大きく報道されました。

しかし同社の公表によれば、実態はより地味なものでした。2025年3月、Siemiatkowski氏はX(旧Twitter)上で、”we did not replace SaaS with an LLM”(SaaSをLLM〈大規模言語モデル〉で置き換えたわけではない)と明言しています。実際に行われたのは、AIを使って社内に分散したデータの重複や誤りを洗い出したうえで、HR領域は別のSaaS(Deel)に切り替え、CRM機能も複数のSaaSと社内システムを組み合わせて再構成する、という地道な統合作業でした。「AIが全SaaSを代替した」という話ではなく、「AIの助けを借りてSaaSの契約を棚卸しし、重複を整理した」という話に近いというのが実態です。

この2つの一次情報が示すのは、「SaaSは終わる」という単純な図式ではありません。中小企業にとっての実務上の論点も、ここに絞られます。「SaaSかAIか」という二択ではなく、汎用的なSaaSを自社の業務にそのまま当てはめている部分と、自社の業務に合わせて作り込む価値がある部分を見分けることが、実務上の課題になります。

中小企業でSaaS費用はどう積み上がるのか — 20名規模のモデルケース

SaaSの費用が「気づいたら積み上がっている」状態になるのは、多くの場合、悪意ある無駄遣いではありません。部門ごとに必要なツールを都度契約し、ユーザー数課金のプランが従業員の増加とともに比例して膨らみ、契約更新のタイミングで見直されないまま自動更新が続く。この3つが重なった結果です。Klarna社も、AIでデータを分析して初めて「同じような情報が複数のSaaSに分散していた」ことに気づいたと説明しています。

自社の場合に置き換えて考えるために、従業員20名規模の会社を想定したモデルケースを示します。あくまで一例であり、実際の費用は契約プラン・ユーザー数・利用オプションによって変わります。

前提: 従業員20名全員が対象ツールを利用し、各カテゴリを1サービスで契約、年払いプランを選択(税別・税込の表記は出典サイトの表記に準拠)。

カテゴリ 例として挙げるサービス 価格の考え方(公式サイト表示) 20名利用時の月額目安 年額目安
チャット・社内コミュニケーション Chatwork(スタンダードプラン) 1ユーザー月額700円(税別・年払い時) 14,000円 168,000円
CRM・案件管理(業務アプリ基盤) kintone(スタンダードコース) 1ユーザー月額1,800円(最低10ユーザーから) 36,000円 432,000円
勤怠管理 KING OF TIME 全機能一律1ユーザー月額300円(初期費用0円) 6,000円 72,000円
会計 freee会計(スタンダードプラン) 組織単位で月額8,980円〜(年払い時) 8,980円 107,760円
請求書発行 Misoca(プラン100・月100枚まで) 年額33,500円(税別・次年度以降の通常価格) 2,792円 33,500円

価格は2026年9月7日時点で各社公式サイトに掲載されていた情報に基づく概算です。Misocaは公式サイトに初年度無償キャンペーンの記載があるため、表には次年度以降の通常価格を載せています。この5カテゴリの合計だけで、月額はおよそ6.8万円、年額ではおよそ81万円に達します(税別・税込の表記が一部混在するため、実際の支払額はやや変動します)。ここに営業支援ツールやオンラインストレージ、Web会議ツールなどが加わると、金額はさらに積み上がります。重要なのは金額の大小そのものより、どのカテゴリが自社の業務に本当に合っているかを定期的に確認する仕組みがあるかどうかです。

SaaSを残すべき領域、見直し候補になりやすい領域

「SaaS is dead」を額面通りに受け取って全SaaSを解約するのは、実務的ではありません。Klarna社の事例が示すように、実際の作業は「全否定」ではなく「仕分け」です。判断軸を、残すべき領域になりやすいものと、見直し候補になりやすいものに分けて整理します。

判断の視点 残すべき領域になりやすい 見直し候補になりやすい
制度対応の有無 会計・給与計算など、法改正・税制改正への追従が必要な領域(例: freee、マネーフォワード等) 自社独自の業務フローに汎用ツールを無理に当てはめている領域
データの分散度合い 社外の取引先・パートナーとも接続する汎用コミュニケーション(メール・チャット等) 似た機能のツールを複数契約し、情報が分散している領域
課金モデル 組織単位の定額制で、人数増加の影響を受けにくい領域 ユーザー数課金で、組織拡大とともに費用が比例して増える領域
運用実態 セキュリティ・認証基盤など、脅威情報の更新をベンダーに委ねる必要がある領域 契約時に必要だった機能の一部しか使っておらず、上位プランのまま契約が続いている領域

左側の領域は、法改正への追従やセキュリティアップデートをベンダーが継続的に担ってくれること自体に価値があります。自社で内製すると、この継続的な追従を自社が背負うことになり、負担は軽くなりません。経理業務でのAI活用のように、専門SaaSと自社の運用を組み合わせる形が現実的な領域です。

右側の領域は、契約時の想定と実際の使われ方がずれやすい領域です。特に営業支援・CRM系のツールは、営業業務でのAI活用でも触れているとおり、自社の商談プロセスに合わないまま複数ツールを併用し、入力が形骸化しているケースが少なくありません。ここが、見直しの効果を最も検証しやすい領域です。

内製という選択肢は現実的か — AI駆動開発という視点

SaaSを見直す選択肢の一つとして、自社の業務に合わせてAIを組み込んだシステムを内製する、という方向性も出てきています。AI駆動開発(AIを活用してソフトウェアを開発する手法)によって、以前は外部委託でしか実現できなかった規模の開発を、より小さな投資で検討できるようになったためです。ここで比べるべきは「SaaSかAIか」ではなく、「汎用的なSaaSを積み上げる構成」と「自社の業務に合わせて作り込む構成」のどちらが自社に合うか、という点です。

内製が常に有利というわけではありません。判断基準になるのは、次のような点です。

  • 業務ルールの変更頻度: 法改正のように外部要因で頻繁に更新が必要な領域は、内製すると自社が更新責任を負い続けることになります
  • 保守を担う体制: 開発後の改修・障害対応を誰が担うか(社内人材か、継続的な外部パートナーか)が決まっているか
  • 扱うデータ・業務フローの独自性: 自社固有の商流に強く依存する処理か、他社と共通する汎用機能か
  • 汎用機能か差別化領域か: メールやチャットのような汎用機能は内製の投資対効果が出にくく、自社の商流に直結する部分ほど内製の意味が出やすい傾向があります

これらの基準に沿って判断するには、自社の業務がどちらの性質に近いかを客観的に把握する必要があります。自社の業務でAI活用の余地がどこにあるか判断に迷う場合は、無料のAI自動化診断で材料を得る方法もあります。

なお、本記事を運営する株式会社Walkersは、AI駆動開発を軸として企業ごとのシステムを開発する事業者です(共通のSaaSにアカウントを発行するのではなく1顧客につき1つの環境を構築する提供形態については、FDE型AI導入支援とはで解説しています)。この立場を踏まえたうえで、内製か既存SaaSかの判断は、上記の基準に沿って個社ごとに検討することをおすすめします。

自社のSaaS構成を見直す実務手順

SaaS構成の見直しは、思いつきで契約を切るのではなく、次の手順で進めると現実的です。

  1. 契約中のSaaSを棚卸しする: 部門ごとに契約されているケースが多く、経営者や管理部門が全体を把握できていないことがあります。まず契約書・請求明細を集めて一覧化します。
  2. カテゴリごとに重複を洗い出す: チャット、CRM、勤怠、会計、請求など、同じ役割のツールが複数存在していないかを確認します。
  3. 年間コストを算出する: ユーザー数×単価×12か月で、カテゴリごとの年間費用を出します。金額が大きいカテゴリから優先的に見ていきます。
  4. 残すべき領域・見直し候補の判断基準に当てはめる: 前章の表を使い、制度対応の有無・データの分散度合い・課金モデル・運用実態の4つの視点で仕分けします。
  5. 契約更新のタイミングを起点に動く: 見直し候補になったツールも、契約期間の途中で急に解約せず、次の更新月を起点に代替手段を検討します。

棚卸し台帳のテンプレートと記入例、重複・遊休アカウントの見つけ方はSaaS費用の棚卸し実務にまとめています。解約の可否や違約金、データの持ち出し、法改正への対応など、見直しの実務で出てくる細かな疑問は脱SaaSのよくある質問20に一問一答でまとめています。

この手順を進める前提として、そもそも自社のどの業務にAIやシステムを充てるべきかという棚卸しが必要になります。進め方の全体像は中小企業のAI導入 完全ガイド、ツール選定でつまずきやすい典型パターンは中小企業のAI導入 失敗パターン7選で解説しています。

AI駆動開発で内製すると、何がどう変わるか

前述の「内製」を実際にAI駆動開発で進める場合、変わる点を整理します。まず作るものが、汎用SaaSの標準機能から、自社の業務フローに合わせた専用システム(1社1環境)に変わります。ユーザー数課金や他社と共通の仕様に縛られなくなる一方、仕様も運用も自社の責任範囲に入ります。

体制は、担当エンジニア(FDE)が要件整理から運用の定着まで業務に入り込んで伴走する形が中心です(FDE型AI導入支援とは)。進め方は業務の棚卸し→最初の1業務→小さく作る(MVP)→拡張という順番で、費用は月額のライセンス費用ではなく初期開発費用と保守費用という構造に変わります(AI導入はどこから始める?)。金額は要件によって幅があるため、本記事では扱いません。

法改正対応が必要な会計・給与や、標準機能で足りている汎用業務は、無理に作り替える対象ではありません

よくある質問

SaaSは本当になくなるのですか?

なくなるとは言えません。会計・給与など法改正対応が必要な領域は、SaaSの継続的な更新に強みがあります。「SaaS is dead」は全否定ではなく、自社に合わない契約や重複投資を見直す契機と捉えるのが実務的です。

「SaaS is dead」と言ったのはナデラ氏本人ですか?

この言葉自体を氏が使ったわけではありません。氏が語ったのは、ビジネスアプリケーションはCRUDデータベースと業務ロジックの集合体であり、そのロジックがAI層に移っていくという趣旨の発言です。メディアがこれを要約フレーズとして広めました。

どのSaaSから見直せばいいですか?

自社独自の業務に汎用ツールを無理に当てはめ、複数併用でデータが分散している領域と、ユーザー数課金で人数増加とともに費用が膨らむ領域から確認してください。契約時の想定より使用頻度が低いプランも点検の対象です。

AI駆動開発による内製に切り替えるべきですか?

断定はできません。法改正対応など継続的な更新が必要な領域か、保守を担う体制があるかによって判断が変わります。運営会社Walkersのように内製を提供する事業者もあるため、複数の選択肢を比較したうえで検討することをおすすめします。

自社のSaaS構成のどこから見直すべきかを客観的に知りたい方は、無料のAI自動化診断をご利用ください。自社の業務に合わせたシステムをAI駆動開発で作る場合の相談・見積りは、株式会社Walkersのシステム開発事業で受け付けています。本記事は、FDE型のAI導入支援を行う株式会社Walkersが運営しています。

参考

執筆時点(2026年9月)に各一次情報・公式サイトで確認できた内容に基づきます。

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